拒食症拒食症(神経性無食欲症)の患者さんにいちばん持ってほしい考え方は、「私は太っている」という認識や「太るのが怖い」という気持ちそのものが病気の症状だということです。

そう言われてもすぐには納得できないでしょうが、拒食症の治療では患者さん本人が病識(自分は病気だという自覚)をもち、ご家族や医師と協力して病気を克服しようという気持ちがぜひ必要です。

女性なら誰でも他人に太っていると言われると気にするし、そう言われた経験は心の傷になります。

しかし、二度とそんなことを言われないように絶対に太らないようにしようという気持ちがあまりに強いと、客観的な事実とは関係なしに「私は太っている」「もっとやせなければならない」という強迫観念が形成されてしまうことがあります。

それは、強迫性障害の人がドアの鍵をかけたことを何度確認しても、つまり施錠したことは客観的には明白でも、気になってまた確認しに戻らなければ気がすまない、というのと似ています。

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うつ病はなったことがない人には想像できないつらい病気です。

気分が落ち込んで、何をする意欲もわかないというのもつらいのですが、何よりつらいのは自分には生きていく値打ちがないという気持ちになることです。

しかし、そんなつらい病気でもそれを克服したときに、それまでの自分には見えていなかったものが見えるようになった話す患者さんは少なくありません。

うつ病を経験して見えるようになるもの、分ることというのはどんなことなのでしょうか。

多くのうつ病の「元患者さん」が言うのは、人に優しくなれたということです。

「徒然草」に、病気ひとつしない健康な人は友達に持ちたくないと書かれています。病気の人に対する同情が少なく、思いやりにかけるからです。

心の病気でも、あまりに「健康」な人はときに残酷なことを言います。

うつ病で心のエネルギーが低下しているときにそんな言葉を聞くと深く傷ついてしまいます。

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うつ病になったときにもっとも気をつけたいことは、病院に行かずに治そうとすることと、抗うつ剤など薬を飲まずに治そうとすることです。

うつ病は治療に人の助けが必要な病気で、その人とはまずは医師です。医師との信頼関係がないと、うつ病の治療はなかなかうまくいきません。

また、患者さんの中には抗うつ剤を飲むことに抵抗がある人も少なくありませんが、医師が抗うつ剤での治療を始めましょうと言ったときは、素直にそれに従うべきです。

軽症のうつ病の場合は、充分に休養を取ったうえで、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法だけで治療することもできます。

しかし、実はその方が時間的にも経済的にも患者さんの負担は大きくなり、実際には無理な場合もあります。

うつ病の患者さんは脳内の神経伝達物質のセロトニンの濃度が低下していることが分っています。

抗うつ剤はそのセロトニンの濃度を上げるお薬で、それによって抑うつ症状が改善することも分っています。

抗うつ剤によってうつ病が根本的に治るわけではありませんが、気分の落ち込みや自己否定感情などのつらい症状をお薬で軽くすることは非常に重要です。

うつ病の治療の最初の目標は重症化を防ぐことだからです。

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月経前気分不快障害月経前症候群(PMS)という病気は聞いたことがあるが月経前気分不快障害(PMDD)は初耳だという人が多いのではないでしょうか?

この2つは症状に共通した点もありますが、異なる点が多く、別の病気です。

共通しているのは、どちらも月経前に症状が出て、月経が始まると自然に治ることですが、月経前症候群(PMS)は身体症状と精神症状の両方が出るのに対して、月経前気分不快障害(PMDD)は精神症状のみが現れます。

また、その精神症状の程度がPMSより重症だという特徴があります。

ちなみにPMSの身体症状は、ホルモンバランスの変化からくる自律神経の失調によるものが中心で、多い症状としては頭痛、肩こり、腹痛、むくみ、乳房の張りや痛みなどがあります。

PMDDの精神症状はうつ病1種の非定型うつ病の症状と非常によく似ています。

具体的には、うつ病に共通する気分の落ちこみ、意欲の低下と、非定型うつ病によくある、感情の不安定(突発的な怒りや悲しみ)、イライラなどです。

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不安障害夜道で後ろから誰かがつけてくるような足音がしたら誰でも不安や恐怖を感じます。

がけを登るときによく「下を見るな」と言うのは恐怖で足がすくんでしまわないためです。

このように、恐怖や不安は危険やリスクを回避することをうながす感情で、自己保存・自己防衛のために必要な本能です。

しかし、本来恐怖や不安の対象にならないことに異常な恐怖を感じる(快速電車に乗るのが怖いなど)、あるいは恐怖を感じるのはもっともな対象でもその恐怖や不安の程度がはなはだしいのが不安障害です。

それもそういう感情が1回きりのエピソードではなく、繰り返し生じて生活に大きな支障をきたしているのが不安障害という病気です。

不安障害には、不安となる対象の違いによって次のような種類に分けられています。

  1. パニック障害
  2. 社会不安障害
  3. 全般性不安障害
  4. 限局性恐怖症(単一恐怖症)

パニック障害は、パニック発作という非常に特徴的な症状をともないます。

パニック発作とは、突然激しい動悸がしたり、呼吸が苦しくなる発作で、初めての発作のときはこのまま死んでしまうのではないかという恐怖を感じます。

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拒食症の症状拒食症のもっとも特徴的な症状は、食事量の極端な低下です。

これはダイエットと見かけは同じですが、拒食症の場合は明かに健康に害をおよぼすくらいに食事の量が減り、しかも本人はそれが健康を損ないつつあることを認めません。

このような症状の根本にあるのは、食べるべきではないという気持ち、食べることに対する一種の罪悪感です。

こういう気持ちが生じる原因は太ることに対する過剰な恐怖感ですが、それだけではなく、客観的に見るとむしろやせているのに自分は太っていると思い込む認識のゆがみ、やせてきれいにならないと他人に認めてもらえないという自尊感情の低さが関係していると考えられます。

拒食症の患者さんは食べる量が少ないというだけでなく、食卓に着いてもなかなか食べ始めようとせず、食べるときは異常に食物を細かく刻む傾向があります。

また、肥満恐怖から1日に何度も体重を計り、少しでも増えていると、食べた後に喉に指を入れて吐く、下剤を服用するなどの行動をとります。

あまり食べないのに運動量を増やすという場合もあります。

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拒食症の原因拒食症は過剰なダイエットがきっかけで発症することが多い病気で、患者の多くは10代の女性です。

正式には「神経性無食欲症」あるいは「神経性食欲不振症」といい、過食症を含む摂食障害の1つです。

アメリカの人気音楽グループ、カーペンターズの女性ボーカルのカレン・カーペンターが拒食症のため1983年に32歳で死亡したことで、この病気が広く世間に知られるようになりました。

拒食症はいったん発症するとなかなか治りにくい病気で、非常に死亡率が高い(6~7%)ことでも知られています。

拒食症のスタートラインは「自分は太っている」という認識と「やせてきれいになりたい」という願望で、どちらも女性なら誰しも経験がある心理状態です。

しかし、ここから極端なダイエットにはまると、栄養失調が心身におよぼす影響も加わって、しだいにこの心理状態に異常性が生じる場合があります。

つまり、客観的には太っていないしむしろやせているのに、まだ太っていると思い込む「認識のゆがみ」が生じ、やせてきれいにならないと人に受け入れられないと強く思い込んでしまうことがあるのです。

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社会不安障害と仕事仕事に都合の良い病気というものはありませんが、初対面の人と話したり電話をすることに強い緊張を感じ、そんな場面に参加することに恐怖や不安を抱く社会不安障害は、とくに仕事を続ける上ではやっかいな病気です。

もしかして社交性障害かなと思いながら病院で診断を受けず、治療をしないまま、なんとか仕事を続けているという人は、症状が改善しつつあるという自覚がないかぎり、早めに精神科または心療内科を受診すべきです。

いわゆる「場数を踏む」ことでは改善せず、むしろ失敗の経験が予期不安を増幅して、さらに強い緊張や恐怖を感じるようになるのがこの病気の特徴です。

また、治療をしている人は医師の指示に従うことが基本ですが、この病気に対する自分自身の知識、理解深めることも重要です。

俗に「べつに命を取られるわけじゃなし」と言いますが、社会不安障害はまさにそんなささいなことに強い緊張や恐怖・不安を感じてしまう病気です。

この一見理不尽な恐怖や不安が、「他人から低く評価されることを恐れる気持」から来ていることを自分で了解しておくことは大切です。

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社会不安障害と治療薬社会不安障害は、人前で失敗して恥をかくことを強く恐れて、人前で何かをすることに強い緊張と不安を感じる病気です。

10代で発症することの多い病気ですが、治療が遅れると重症化して、うつ病などを併発するケースが少なくありません。

治療は精神科または心療内科で薬物療法や精神療法を行ないますが(両方を並行して行うこともあります)、ここでは薬物療法についてお話します。

社会不安障害の治療に使われるお薬の第一選択はSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)です。

これは抗うつ剤として有名なお薬で、20世紀末に登場した副作用が少ない新しいタイプの抗うつ剤です。

SSRIは脳の神経伝達物質の1つのセロトニン受容体に作用して、脳内のセロトニン濃度を高める働きがあります。

それによってうつ病では気分の落ちこみが改善し、社会不安障害では不安な気持ちが軽減します。

脳内の神経伝達物質にはセロトニンの他に、ドパミン、ノルアドレナリンなどがありますが、セロトニンは怒りや不安、悲しみなどの感情をやわらげて気分を安定させる働きをしています。

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社会不安障害の症状社会不安障害は人前で何かをすることに強い不安を感じる病気です。

その不安の根底には、恥をかくこと、他人から低い評価をされることに対する強い恐怖感があります。

患者さんが症状をうったえる具体的な社交場面には次のようなものがあります。

  • ミーティングなど人前で話すときに声が震えてうまく話せない。
  • 結婚式の受付で記帳するなど、人前で字を書くときに手が震える。
  • 会食で人が見ていると思うとふつうに食事ができない。
  • かかってきた電話に出るのがこわい、出ても受け答えがうまくできない。とくに同僚や上司が周りにいるときは電話に出たくない。
  • 名刺交換をするとき、お客様にお茶を出すときなどに手が震える。

これらの場面に共通しているのは、人に見られているということです。

実際にはそれほどでなくても、本人は「注目されている」と思って緊張します。

声や手が震える他に、赤面する、大量に発汗する、動きがぎこちなくなる、動悸・腹痛・尿意が起きる、などの身体症状が出ます。

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