抗うつ剤うつ病で精神科や診療内を受診する患者さんの中には、「なるべく抗うつ剤などお薬を使わずに治したい」と希望される人がいます。

うつ病かなと思ってもなかなか病院を受診するふんぎりがつかない人が多い中で、きちんと治療する決断をされたことは賢明な選択ですが、「お薬を使わずに治したい」ということにこだわると治療の効果が上がらない場合があります。

その説明の前に、もし診察の時に医師があなたに「抗うつ剤を飲んでみますか?」と聞いてきたらどう思うかを考えてみてください。

そんなこと聞かれても困るし、何とも頼りないお医者さんだと思うはずです。

うつ病の治療には患者さんの協力が必要なので治療方針について医師から相談されることはありますが、薬を飲むかどうか、どんな薬を飲むかは医師が決めることです。

医師が患者さんと相談するのは、例えば「お薬だけよりもカウンセリングを受けた方が良いと思いますが、その時間は取れますか?」というようなことです。

カウンセリングや認知療法などの心理療法が効果的だと思っても、薬物療法よりは時間も費用もかかるので医師の一存では決められないからです。

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うつ病を治すうつ病は自然と治るのか?という疑問の背景には、できれば精神科などを受診せずに治したいという気持ちがあるのではないでしょうか。

精神疾患に対する偏見は少なくなってきたとはいえ、まだかなり敷居の高い受診科であることは変わらないからです。

また、病院に行かないで治せないかと思う人には、症状が軽症だという自覚があるようです。まだなんとか会社にも行けているし、病院に行かなくても治せるのでないかと思うのです。

しかし、こういう考えには大きなリスクがあります。その1つはうつ病を含む精神疾患は身体の病気よりも自然治癒が働きにくいということです。

精神疾患でもヒトが持っているホメオスタシス(恒常性を保とうする力)は働きますが、身体的な疾患に作用する免疫力や組織の修復能力に相当するものはないからです。

つまりうつ病は放置すると良い方向へ向かうより、悪い方向へ向かうことが多い病気なのです。

もう1つのリスクは、うつ病は患者さんに「認識のゆがみ」を生じさせる病気だということです。

つまり、いろいろなことについて間違った判断をしてしまいやすい病気なのです。

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うつ病は心の風邪じゃない「うつ病はこころの風邪」という言葉は、2000年前後に初めてSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)が販売されたころに、製薬会社が使いはじめたキャッチフレーズです。

この言葉を初めて使用したのは、世界初のSSRIであるデプロメールを発売したMeiji Seikaファルマ社でしたが、世界にこの言葉広めたのは2番目のSSRIのパキシルを発売したグラクソ・スミスクライン社だと言われています。

SSRIは従来の三環系抗うつ剤などに比べて副作用が少なく安全性の高い薬として、比較的軽症のうつ病にも処方されるようになりました。

一時期米国などでは、ストレスの多い仕事をしているビジネスマンの間で抗うつ剤を服用するのがブームのような様相を呈したこともありました。

そのブーム(?)に一役買ったのが「うつ病はこころの風邪」というキャッチフレーズです。日本でもこの時期に抗うつ剤の処方が飛躍的に伸びました。

うつ病は「こころの風邪」という表現は、うつ病が特別な人がかかる病気ではなく、誰でもかかる可能性があるふつうの病気だと、いうことを世間に知らせるうえで大きな功績がありました。

しかし、風邪にたとえることによってうつ病に対して大きな誤解を与えるという罪も犯すことになりました。

その誤解とは、軽いうつ病は治療をしなくても自然に治るという考えです。

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抗うつ剤抗うつ剤は脳内のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を上げるお薬です。

これはたとえると、バッテリーを充電して電圧を上げていくことに似ています。それにはある程度の時間がかかり、OFFになった電灯のスイッチをONにするようなわけにはいきません。

SSRIやSNRIなどの最近の抗うつ剤は効き目が出だすのが以前の抗うつ剤よりも早くなりましたが、それでも1~2週間はかかります。

さらに、薬本来のしっかりした効果が出るまでには1~2ヵ月かかります。

しかし、問題は抗うつ剤には症状や個人との相性があって、医師も最初からどの薬が良いかは分からないことがあり、飲みはじめても効果がない場合は薬の種類を変える必要があるということです。

うつ病はたいへん辛い病気なので、2週間も薬を飲んで効かないから別の薬にしようというのはまさに泣き面にハチですが、そんなとき患者さんが絶対してはならないことは自己判断で薬の量を増やすことです。

抗うつ剤は例えばふつうは1日10mgを服用する薬なら最初は2.5mgとか5mgから服用をはじめで数週間かけてしだいに用量を増やしていきます。

これはどれくらいで効果が出るかを見極めるためでもありますが、副作用を少なくするという目的もあります。

抗うつ剤は効果が出る前に副作用が先に出るという性質があります。

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マタニティーブルーマタニティーブルーと産後うつ病はどちらも出産後におきる気分の落ちこみですが、マタニティーブルーはthe 3rd day blue(産後3日目の憂うつ)とも言われる一時的な心の変調で、とくに治療をしなくても自然に良くなります。

それに対して、産後うつ病は治療が必要な病気で、放置すると一般的なうつ病と同じで自殺念慮が生じたり、育児放棄や虐待につながる場合もあります。

マタニティーブルーも産後うつ病も原因は出産後の急激なホルモンバランスの変化です。 続きを読む

軽症のうつ病を軽く考えてはいけない理由は、軽く考えて放置すると重症化するおそれがあるということ以外に、軽症のうつ病だからこそ気をつけなければいけないリスクがあるからです。

それは、うつ病の特徴的な症状の1つである「自殺念慮」を実行してしまうことです。

うつ病は重症のときは自殺する心配はないが、回復期に入って少し元気になるとそのおそれがある、という話を聞いたことがあると思います。

軽症のうつ病は自殺する元気があるのがやっかいなところなのです。

自殺念慮は自殺したい思いというよりは、自殺しなければならないという思いです。

これはうつ病に特有のゆがんだ自己認識のせいで、自分には生きている価値がないとい思い込むことからきます。

よく誤解されているので気をつけたいのは、この自殺念慮は重症のうつ病にだけあるのではなく、軽症のうつ病にもあることです。

一時的な気分の落ちこみは誰にでもありますが、そう何日も続かないし本気で自殺を考えることはありません。

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うつ病は甘えじゃないうつ病がたいへんつらい病気で重症になると自殺するケースもあるということを、私たちは一般論としては知っています。

しかし、具体的に身の回りの人物、例えば会社の同僚がうつ病で休職したとしたら、その人に対してどんな気持ちを抱くでしょうか?

その人との人間関係や病気になる前のその人の仕事ぶりにもよるでしょうが、かならずと言ってよいほど出てくるのが「ほんとうにうつ病なの?」「いつまで会社休むのかしら」「うつ病とかいって甘えているだけじゃないの」などと言う声やうわさ話です。

うつ病で休んでいる人を気の毒だと思う反面、自分はつらい仕事や人間関係に耐えて頑張っているのにという気持ちがあるので、つい「甘えているんじゃないの」と言いたくなるのでしょう。

休んだ人の仕事をカバーしなければいけないという不満もあるかもしれません。

しかしこういう噂話が本人の耳に入ると、言う方は軽い気持ちでも、ときには回復しかかった病気を振り出しに戻すほどの悪影響をあたえます。

うつ病はそれでなくても自尊感情が低下して自己否定的な気持ちになりやすい病気なので、他人のわるい評価や評判に反発する元気はとても出てこないからです。

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