2014年に発売された「ベルソムラ」という睡眠薬が注目されています。それは、この薬が従来の睡眠薬とはまったく違うメカニズムで作用し、耐性や依存性がほとんどないと言われているからです。
現在もっとも処方例が多く、薬の種類も多いのがベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。これは「GABA受容体作動薬」と呼ばれるお薬で、ひと言でいうと、脳の興奮を抑えるGABAという神経伝達物質を活性化することで、脳の活動を鎮静化する作用があります。
それに対して「ベルソムラ」は「オレキシン受容体拮抗薬」と呼ばれるお薬で、脳の覚醒に必要なオレキシンという物質の作用を阻害して、覚醒から睡眠への切り替えをスムーズにする作用があります。
つまり、この2つは、眠りに導くという効果は同じでも、脳のどの部分に作用するかがまったく違う薬なのです。
したがって、この新薬に期待されるのは、①ベンゾジアゼピン系の睡眠薬ではよく効かなかった不眠症にも効果があるのではないか、②ベンゾジアゼピン系の睡眠薬にある副作用がないのではないか、ということです。
ベルソムラは、承認前の臨床試験と発売後6ヶ月目に行われた市販後調査から見て、依存性が出る可能性は非常に低く、安全性が高い睡眠薬といわれています。
承認前の12ヵ月間の服用試験では投与終了後に離脱症状や反跳性不眠(以前より不眠が悪化すること)は出なかったと報告されています。
睡眠薬の歴史は、耐性や依存性の少ないより安全な薬が開発される過程とも言えますが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬ではまだ長期使用者にとっては、耐性や依存性の形成が大きな問題になっていました。
ベルソムラは発売後まだあまり時間がたっていないので確定的なことは言えませんが、依存性の少なさは不眠症の患者にとって大きなメリットになります。
その他にベルソムラのメリットとして、①ベンゾジアゼピン系の睡眠薬にある筋弛緩作用によるふらつきの副作用が少ない、②服用後の健忘の副作用がない、③翌日への眠気の持ちこしが少ない、④眠りを深くし睡眠の質を良くする、などが指摘されています。
デメリットとしては悪夢をよく見るようになるといわれています。これは睡眠の質を良くするというメリットと矛盾しそうですが、ベルソムラはノンレム睡眠時の眠りを邪魔せずに深い眠りが得られる半面、レム無睡眠時には悪夢を見やすいという欠点があります。
また、ベルソムラは覚醒を維持する物質のオレキシンに作用する薬なのて、服用することで突然眠りの発作が起きるナルコレプシーの症状が出るのではないと心配されましたが、今のところそのような報告はありません。
ベルソムラは、中途覚醒の治療にとくに有効とされていますが入眠障害にも効果があるので、今後は初めて睡眠薬を使う患者さんにまず処方する薬として処方例が増えることが予想されています。
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