うつ病は甘えじゃないうつ病がたいへんつらい病気で重症になると自殺するケースもあるということを、私たちは一般論としては知っています。

しかし、具体的に身の回りの人物、例えば会社の同僚がうつ病で休職したとしたら、その人に対してどんな気持ちを抱くでしょうか?

その人との人間関係や病気になる前のその人の仕事ぶりにもよるでしょうが、かならずと言ってよいほど出てくるのが「ほんとうにうつ病なの?」「いつまで会社休むのかしら」「うつ病とかいって甘えているだけじゃないの」などと言う声やうわさ話です。

うつ病で休んでいる人を気の毒だと思う反面、自分はつらい仕事や人間関係に耐えて頑張っているのにという気持ちがあるので、つい「甘えているんじゃないの」と言いたくなるのでしょう。

休んだ人の仕事をカバーしなければいけないという不満もあるかもしれません。

しかしこういう噂話が本人の耳に入ると、言う方は軽い気持ちでも、ときには回復しかかった病気を振り出しに戻すほどの悪影響をあたえます。

うつ病はそれでなくても自尊感情が低下して自己否定的な気持ちになりやすい病気なので、他人のわるい評価や評判に反発する元気はとても出てこないからです。

うつ病は薬で治す必要がある病気です。カウンセリングや心理療法も並行して行いますが、基本は薬物療法です。

使う薬はおもに、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの濃度を上げる作用のある抗うつ剤です。

うつ病は重症になると朝ベッドから起き上がることや顔を洗うことも大仕事になります。

これはいわば脳のバッテリーの電圧が下がった状態で、気分の落ち込みとともに、健康なときには何でもなかったことができなくなるくらい意欲が低下します。

患者さんは症状の重いときは外出することは困難ですが、回復期には医師のすすめもあって散歩などに出かけることがあります。

たまたま会社の同僚がそんな様子を見かけると「あいつ会社を休んで遊んでいるよ」というような評判が広まります。

しかし、休職するには医師の診断書が必要ですし、うつ病ではないのにそのふりをする詐病を見抜けないようなぼんやりした医師はいません。

黙って座ればピタリと当たるとは言いませんが、うつ病の患者さんには医師ならすぐにわかる特徴的な顔つき、目つき、ふるまいがあります。

それを真似するには長年うつ病の患者さんを診てきた医師と同じくらいの経験と名優レベルの演技が必要になります。

身の回りにうつ病の患者さんがいる人には、うつ病は気の持ちようで発症したり治ったりするものではなく、薬で治さなければいけない病気で、治療にはかなりの時間がかかる、ということをぜひ理解していただきたいと思います。

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