うつ病はなったことがない人には想像できないつらい病気です。
気分が落ち込んで、何をする意欲もわかないというのもつらいのですが、何よりつらいのは自分には生きていく値打ちがないという気持ちになることです。
しかし、そんなつらい病気でもそれを克服したときに、それまでの自分には見えていなかったものが見えるようになった話す患者さんは少なくありません。
うつ病を経験して見えるようになるもの、分ることというのはどんなことなのでしょうか。
多くのうつ病の「元患者さん」が言うのは、人に優しくなれたということです。
「徒然草」に、病気ひとつしない健康な人は友達に持ちたくないと書かれています。病気の人に対する同情が少なく、思いやりにかけるからです。
心の病気でも、あまりに「健康」な人はときに残酷なことを言います。
うつ病で心のエネルギーが低下しているときにそんな言葉を聞くと深く傷ついてしまいます。
うつ病を経験した人はそんな思いを何度もしているので、人を傷つけるようなことを安易には言わなくなるというのです。
同じことですが、自分がつらい経験をしたことで、ひとのつらさが見えるようになり、相手の気持ちを考える大切さが分ったという人もいます。
それまで自分は自分、他人は他人とおたがいの気持ちに壁を作っていたのに、その壁を取り払って気持ちを延ばし、通い合わせることができるようになったというのです。
また、うつ病の治療の過程では、家族はもちろん会社の上司や同僚のさまざまな面でのサポートを受けることになります。
それを経験することで周囲の人たちの優しさに気づき、それに感謝する気持ちが生まれるのです。
それまでは多少人を見下すような態度があった人でも、身の回りの人たちを尊重し、敬意をこめて接しようという気になったといいます。
さらに、うつ病を経験した人は、無理をすると心がこわれるということを身をもって知ります。
それまでは、こうでなくてはならないと頑張って、いわば自分の心や身体を乱暴に取り扱ってきた人が、自分自身をていねいにあつかい、ときどき休ませてあげるコツをつかみます。
あまりきちょうめんに生真面目にすべてをこなそうとせずに、少し手抜きをしてもいいんだと考えるようになるのです。
もう1つ、うつ病の経験者でなくては得られないことは、周囲にうつ病の人やうつ病になりそうな人がいたら、誰よりも早く気づくことです。
また、そういう人への接し方も分っているので、早めにサポートの手を延ばしてやることが可能になります。
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