どんな高いところでも怖くないという人がいたら、その人こそある意味で精神障害というべきかもしれません。
だれでも高いところは怖いし、そういう感覚は安全に暮らしていくために必要でもあります。
しかし、高所恐怖症は不安障害の中の限局性恐怖症の1つとして認められています。
では高所に対する恐怖は、どこまでが正常でどこからが病気なのでしょうか。もちろん、高さ何メートルまでとか、ビルの何階まで、というような線引きはできません。
高所への恐怖が病気と診断されるのは、それが生活に支障をきたすほどに過剰な場合です。
例えばガラス張りのエレベータに乗るのは誰でも多少は怖いものですが、足がすくんでしゃがみこんでしまうなどの過剰な恐怖を感じる場合は高所恐怖症とみなされます。
高所恐怖症になるのは、幼いころに高いところで怖い思いをしたなどの経験が原因の場合もありますが、多くのケースではとくに思い当たるきっかけがなく、原因も特定できません。
しいて原因をあげるなら「不安や恐怖(高所恐怖、閉所恐怖、先端恐怖)を感じたり増幅させたりしやすい脳の作用」ということになります。
このような脳の作用にはセロトニンなどの脳内ホルモンの不足や、脳の中で不安や恐怖に関わっている扁桃体の機能亢進が関係しているという説もあります。
高所恐怖症の治療は、①高所に対する歪んだ認知を修正する、②実際に高いところに行って少しずつ慣れていく、という2つのアプローチを並行して行ないます。
高所に対する認知の修正は、安全が確保されている場面でも異常な恐怖を感じるという認識をゆがみを自覚し、修正していくものです。
しかし、「分っているけど怖い」のが高所恐怖症なので、認知のゆがみを修正するだけではあまり効果は望めません。
そこで必要なのが、「暴露療法」(エクスポージャー・セラピー)と呼ばれる行動療法です。これは段階をふんで少しずつ高い所に行って、恐怖を克服していく方法です。
暴露療法では、現場に同行して動けなくなったときなどに手を貸してくれる協力者の存在が重要です。
いざというときに助けてくれる人がいることは恐怖を軽減するうえでも役に立つからです。また、その際に抗不安薬を服用するのも効果があります。
ただし行動療法の補助としてではなく、単に抗不安薬を服用するのは一時的な効果しか期待できません。
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