注意散漫、落ち着きがない、順番を待てないなどの症状があるADHD(注意欠陥・多動性障害)は、子どもの発達障害の1つとして有名ですが、大人になってもその症状が残るケースが少なくありません。
ADHDのくわしい原因はまだ分っていませんが、親の育て方や本人の性格に原因があるのではなく、脳の機能障害と考えられています。
機能障害といってもごく微細なものですが、高度に社会的な生活を営む人間にとっては、それが人間関係に大きな意味を持ち、本人を悩ませることになります。
現在のところもっとも有力な仮説は、ADHDはドーパミンという神経伝達物質がじゅうぶんに作用しないことによって起きる、というものです。
これは、ドーパミンを増やす薬がADHDの症状を改善することによっても確かめられています。
ドーパミンは「報酬系」といわれる脳の神経伝達物質で、快感、やる気、学習能力などのの伝達に関係しています。
セロトニン、ノルアドレナリンとともに3大神経伝達物質とよばれる重要な脳内ホルモンです。
脳の神経細胞と神経細胞の間には「すき間」(シナプス間隙)があり、ドーパミンなどの神経伝達物質はそのすき間をつなぐ連絡役をしています。
しかし、一方の神経細胞から放出されたドーパミンがもう一方の神経細胞のドーパミン受容体にうまく受け止められないと、最初にドーパミンを放出した細胞に「再取込」されてしまいます。
それによってドーパミン不足の状態になり、感情のコントロールなどに支障が生じます。これがADHDの患者さんの脳内で生じている機能障害だと考えられています。
この他にADHDの患者さんには、脳の前頭前野の機能にも微細な障害があると考えられています。
前頭前野は推論、計画、実行などの複雑な思考や、社会生活に必要な高次な感情、動機づけなどをになう部分です。
この前頭前野の機能に多少なりとも障害あるいは偏りがあると、社会生活を営む上でも少なからず支障が現れます。
ADHDの治療は、ドーパミンを増やす薬などを使用することもありますが、中心になるのは「心理社会的治療」です。
これは、ADHDの症状をとりあえず「個性」ととらえて、それを周囲の環境とどう折り合いをつけていくかを考え、訓練していく治療法です。
同時に周囲にこの病気に対する理解を深めてもらうことも重要です。
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