拒食症(神経性無食欲症)の患者さんにいちばん持ってほしい考え方は、「私は太っている」という認識や「太るのが怖い」という気持ちそのものが病気の症状だということです。
そう言われてもすぐには納得できないでしょうが、拒食症の治療では患者さん本人が病識(自分は病気だという自覚)をもち、ご家族や医師と協力して病気を克服しようという気持ちがぜひ必要です。
女性なら誰でも他人に太っていると言われると気にするし、そう言われた経験は心の傷になります。
しかし、二度とそんなことを言われないように絶対に太らないようにしようという気持ちがあまりに強いと、客観的な事実とは関係なしに「私は太っている」「もっとやせなければならない」という強迫観念が形成されてしまうことがあります。
それは、強迫性障害の人がドアの鍵をかけたことを何度確認しても、つまり施錠したことは客観的には明白でも、気になってまた確認しに戻らなければ気がすまない、というのと似ています。
もちろん拒食症の患者さんも食べることの必要性、栄養の大切さは知っていますが、太ることへの恐怖が大きいと、それが頭に浮かばなくなってきます。
拒食症の治療は太ることへの恐怖を少しずつ減らしていき、食べることの大切さを少しずつ再認識していくことです。
そのためには、患者さん自身ができるだけ拒食症(神経性無食欲症)について勉強し、知識を得ることも重要です。
治療のために医師がアドバイしたり、家族がサポートしてくれることの意味をできるだけ了解して、前向きに取り組むことで治療の成果が上がるからです。
太るのを怖がる気持ちそのものが病気の症状だと患者さん本人が自覚できれば、ある意味で治療は半ば成功したと言うことができます。
実際にはその認識がまたゆらいで症状が行きつ戻りつすることもあるでしょうが、拒食症の治療は長期戦を覚悟して焦らず小こなす必要があります。
治療中に大切なもう1つのことは、医師や家族を「私の気持ちを理解してくれない敵」と考えるのではなく、「私のために力を尽くしてくれる味方」と考えて、心を開いて協力し合うことです。
そういう意味で患者さん自身がもう一歩大人になることも治療のために重要です。
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